犯人が動機を認めた

 

検事から連絡があり、面談する事になった

私の仕事に合わせて、夕方からの面談にしてくれた

 

検事との面談で、犯人がわいせつ目的だった、と動機をようやく認めたと聞いた

これで裁判に出なくてもよくなったという事になる

 心が随分と軽くなった

 

やはり人前で話すのは嫌だった

しかも今回の裁判は裁判員裁判と聞いていたから、なおさらだった

 

検事いわく、弁護士が被害者にこれ以上負担をかけないためにも動機を認めた方がいい、と犯人を説得してくれたそうだ

 

ありがたかった

 

やっぱり同じ女性

弁護士とは言え、被害者の立場に立って行動してくれる素晴らしい弁護士さんなのだ

 

素直に感謝した

 

犯人が動機を認めた事で、検察での聴取も無事終わり、

後は裁判の開始を待つのみとなった

 

裁判に出なくてもよくなった事で少し余裕が出た私は、

犯人に手紙の返事を書くことにした

 

許す気はない

自分がやった事は必ず自分に返ってくる

だから覚悟してほしい

自分の罪を見つめて更正して欲しい

自分を愛せないなら、愛せる様に努力して欲しい

人を襲うのではなく、愛される様に努力して欲しい

 

そんな内容だった

 

これは偽善的な行為なのかもしれない

相手にとっては絵空事なのかもしれない

相手の心には一切届かないかもしれない

書くべきか否か

自問自答を何度もした 

 

犯人に手紙を書くなんて、どうかしてる

人に話したらきっとそう言われるだろうと思った

 

 

でも犯人に因果応報を教えたかった

 

自分がした事は必ず自分に返ってくる

夜中に人を襲う選択をしたお前には

女性に人生で1番怖い思いをさせたお前には

必ずそれ相当の地獄が待っている

 

そう知って欲しかったのだ

 

手紙を書き終え、弁護士との面談の日を待った

弁護士と初対面

 

弁護士から早速電話が来た

女性の弁護士だ

ものすごく低姿勢な印象だった

 

この度は大変ご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません

まるで犯人の身内か何かのような物言いだ

 

犯人の両親が私に会ってお詫びしたいと言っているので、是非とも会って頂きたい

と言う

 

 

犯人の両親に会う必要は無いと思った

その親に同情してしまうと思ったし、20歳過ぎた男の犯行に親の責任は問えないと思ったからだ

 

すると弁護士は犯人から手紙を預かったのでそれを渡したいと言った

私は弁護士と会うことにした

 

弁護士との初対面の日が来た

Googleで弁護士事務所を検索し、私の市に結構あるんだと気付いた

今まで裁判と無関係な人生だったから気付かなかったな

 

その弁護士の印象は、普通の何処にでも居そうな地味な女性という感じ、私より歳が若いか

物腰がとても柔らかく、

心の底から被害者の私に同情している風だった

彼女自身にも娘がおり、この事件の担当になった事で犯人から逆恨みされるのが怖い

被告人に会ったが、ものすごく気持ち悪い印象で、反省している様にも見えない

なぜ、私がこんな事件の担当弁護士に指名されたのか、事務所に対して恨む気持ちすらある、と感情的に言った

 

とても人情味溢れる対応だ

私はすっかりその弁護士に心を開いていた

 

 

慰謝料の話になり、金額はお任せということになった

 

相場は20万くらいだとネットに載っていた

そのくらい貰えれば、少しは気が晴れるかなと思った

 

 

弁護士は最後に私に犯人が書いた手紙を渡した

 

「こんな手紙渡されても気持ち悪いですよね。読んだら捨ててもらっても構いませんので。」

 

私は受け取り、その場で読んだ

 

普段使わないような堅苦しいお詫びの文章を、子供のような字で書いてあった

 

きっとこの弁護士に言われて、何かのテンプレートを参考にして書いたんだろう

 

犯人が自分で書いた内容は一つも書いていないという印象だ

 

 

こいつは反省などしていない

出てきたら必ずまたやる

そう感じた

 

訴える事で私の本名が犯人に明かされる

逆恨みされるかもしれない

 

一緒に訴えている他の2人の被害者のうち、1人は私と同じ、強制わいせつ致傷だが、

犯人は私だけ動機を否認している

 

要はカギを握っているのは私なのだ

裁判に出て証言する事になれば、犯人が1番恨むのは私になるだろう

 

でも、だからこそ

ヤツをこの手でぶち込んでやる

犯行はエスカレートしてきていた

しかも短期間でめまぐるしく

短い刑期で出てきたら、またやる

新たな被害者が出る

その人はきっともっと酷い目に遭うだろう

 

私がやらないといけない

被害者の中で最年長だし、なんの因果か私にお鉢が回ってきたのだ

 

だから私が頑張んなきゃ…

やるしかない、そんな気持ちだった

 

その気持ち悪い手紙を受け取り、慰謝料を受け取る日を決め、

弁護士との初面談を終えた

担当検事と初対面

 

担当検事が決まり、人生で初めて検事という職業の人に会った

 

まず見た目に度肝を抜かれた

正義の味方というより悪の権化の様な風貌だ

(ハゲてるから)スキンヘッドでキリリと鋭い眼光、

背が高くガッチリ体型

検事というより、ヤクザの幹部という感じだ

年齢は50代くらい

口調もオラオラ系だったが、

要所要所でものすごく気遣いを感じる

 

検事は、こう言った

 

「犯人の男、反省なんかしとらんな ナメとる。ああゆう奴は出所して再犯するタイプだ。 出来るだけ長く入ってもらわんといかん。犯人が動機を否認したままなので、あなたや目撃者の方にも裁判に出てもらう事になると思います。全力でサポートしますので、覚悟決めて頑張りましょう」

 

事件後に車で保護してくれた女性も、検察で検事に聴取されるらしい

偶然あの日あの場所であの時間に居合わせただけなのに

彼女には大変な迷惑をかけしている気がして心苦しかった

裁判が無事終わったら、何かの形でお礼しようと決めた

 

裁判では、証言者はつい立てで囲われ、犯人からは顔が見えない

私の本名は犯人に明かされるが、顔や住所等その他の情報は絶対に明かされない

本名が明かされるのが不安だが、名前だけは明かさないといけないらしい

 

検事との面談が始まった

警察で聞かれた事を、1からまた検事に説明する

事件後数ヶ月が経っているので、記憶もかなり曖昧になっていて苦労した

 

体を触られた時の話をするのは何回やっても本当に嫌だった、

どこを何回、どういう風に、と細かく言わなければならない

検事が気遣ってくれてるのは感じるが、嫌なもんは嫌だ

 

いい歳して何を言ってるんだ

と思われる方もいるかもしれない 

でもその気持ちに、年齢は関係ないと思う

経験値も関係ない

10代でも20代でも30代でも嫌なものは嫌だ

自分のプライベートな箇所を無理矢理触られたショックは、

無条件にキツイと感じた

本能的にキツイんだと思う

それを他人と情報共有しなければならない違和感は半端なかった

相手が男ならなおさら嫌だが

女友達に対しても言いづらい 

家族にはぼかして伝えるのが限度だった

 

 

 

検事は言った

 

「相手の弁護士があなたに連絡を取りたがっているので、連絡先を教えてもいいですか?おそらく慰謝料の話だと思います。示談はせず、慰謝料を受け取り、そして告訴するという権利があなたにはありますから」

 

訴えるし、慰謝料も貰う

そういう事も出来るのか…正直驚いた

お金をもらう時は示談する時だけかと思っていた

 

性犯罪の場合、示談で済ます被害者が多いと聞く

だけど私は示談などする気はハナから無かった

 

もし慰謝料が貰えるなら、そのお金を受け取り、その上で告訴する

犯人に二重の罰を与える

それはとても良い考えだと思った

 

「わかりました。弁護士さんに連絡先を教えてもらっても大丈夫です」

 

検事にそう伝えた

検事との初めての面談は2時間程度で終わり、続きはまた後日という事になった

 

医者に疑われて

犯人が動機(わいせつ目的)を否定していたので、警察は送検する前に、裁判で有効になる材料を揃えたがった

 

動機を否認したまま送検されたら、

裁判で私や目撃者が出廷し、証言する必要が出てくるかもしれないと言われた

 

あの日、男に触られた箇所から採取した皮膚片と、犯人のDNAが一致していたので

股間を男が触った事実は立証できている

しかし、犯人が偶然触ってしまったと言えばそれで片付いてしまう

 

犯行は卑劣な物であったことを客観的に証明する材料がもっと必要だった

客観的にというのがポイントだ

 

当事者の証言に加え、怪我の状態を見た医者や、事件の日に通りがかった目撃者の証言がとても有効な証言になる

目撃者の女性は大変協力的で、裁判に出廷しても構わないと言ってくれてる

 

それに加え、病院の診断書を提出して欲しいと警察に言われたので、ムチウチを診てくれた医者に診断書を書いてもらうよう頼みに行った

 

その病院で事件後に診てもらった時は、犯人が捕まるとは思ってなかったし、警察沙汰の怪我だと保険が適用されないという事もあって、自転車で転んだとウソをついて診断してもらっていた

 

診てくれた医者に、事情を話し診断書を書いて欲しいと言ったら、その医者が言った

 

「診断書を書くのはいいですが、1度来たきりで、その後は来られてないですし、全治1週間のムチウチとしか書けませんよ」

 

実際のところは、2週間ほど首は痛かったし

たまに感じる鋭い頭痛もあった

強く打った肘は、何かに触れるとまだ痛かった

 

その状況を説明して、全治2週間と書いて欲しいと頼んだが、その医者は冷たくこう言い放った

 

「私はあなたを1回しか診ていないし、その後の怪我の回復具合を診ていない。レントゲンにも異常はない。今あなたが言われている体の不調は、あなたが言ってるだけで、それを信じて診断内容を変える事は出来ない」

 

 

 

この医者の言ってる事は、間違ってないと思う

でも言い方があると思う

この医者は、

診断書を盛って、何かをだましたり搾取しようとする人間ばかりを日々相手にしているのだろう

 

でも私は違うのに 

被害に遭い、犯人に動機を否認され、すがる思いでココに来た

結果、医者に疑われて冷たくあしらわれた

なんだこれ

 

それでも診断書がどうしても欲しかったので

泣きたい気持ちを我慢して、お願いした

 

その医者は「全治1週間」の診断書を書いた

診断書一枚の費用は、五千円だった

 

 

病院の帰り、車で泣いた

 

 

悲しいのではない

悔しかった

何処にもぶつけようのない怒りがわいてきた

 

あの男を地獄に落とすため、

時間や労力、そしてお金をつかっている

気持ちはこんなにも疲弊している

何回泣けばいいのか

 

人を1人訴えるのは、こんなにも大変な事なんだ

そんじょそこらの気合いでは乗り越えられないのかもしれない

 

この気持ちを真に理解して支えてくれる人はいない

自分で立って、自分で乗り越えないといけないんだ

 

 

 

被害者になってしまったあなた、

病院にかかる時は是非真実を話して受診して欲しい

ウソをつくと後で面倒な事になって、泣くことになるかもしれないから

犯人の動機

この男があなたを襲った犯人です

 

 

警察で男の写真を見せられた

写真にはどこにでもいそうな、これといって特徴の無い

暗い印象のモテなさそうな若者が写っていた

 

大して面白くない人生で

モテもせず、成功もせず、日陰で生きてきたヤツなんだろう

だからあんな事したんだ

そう思った

 

しかし、その犯人は20代の既婚者だった

子供はいないそうだ

まだ若いし、結婚して間も無いだろう

新妻を家に残して、夜中に覆面を被り

女を襲ったんだ

 

その奥さんも被害者のようなもんだな

 

 

警察によると、男の被害に遭ったのは私で3人目なのだそうだ

1人目は10代、2人目は20代

2人とも事件後に被害届を出しており、捜査線上にあがった男は警察にマークされていた

男の犯行内容は回を追うごとに

エスカレートしていったそうだ

 

 

そして警察はこう続けた

 

「犯人があなたの事件だけ、わいせつ目的では無いとと、動機を否認しているのです」

 

え?どうゆうこと?

 

 

「犯人は、むしゃくしゃしてあなたを襲ってはみたものの、あなたを見て萎えた、と言っています」

 

 

萎えた?

な、え、た?

NA E TA?

 

 

 

 

コロす

初めて犯人に殺意が芽生えた

 

警察は続けた

 

 

「前の2件で起訴が決定しているので、ビビったんだと思います。ただの致傷と、強制わいせつ致傷だと刑の重さが変わりますから」

 

 

そしてこう続けた

 

 

「こいつナメとるんですわ。地獄に落としてやらないかん。落としてやりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

はい!!!

 

そこに弱い被害者面の、さっきまでの私の姿は無かった

 

許さん

絶対に許さん

萎えたって、なんだそりゃ、どの面下げて言っとんじゃ

 

絶対地獄に落としたる

そう決意した

 

 

怒りがパワーに変わった日だった

そして犯人が見つかる

数ヶ月が経ち

事件の傷も癒えてきて

一人暮らしにも慣れてきた頃に

警察から電話がかかってきた

 

 

「犯人と思われる人物の特定ができました。まだ逮捕には至っていませんが、その男を聴取したら、あの日あなたを公園で襲った事を認めました」

 

 

まるで予想もしていなかった事だった

まさか犯人が見つかるなんて

日本の警察すげぇ

 

 

「その男はA市に住んでいます」

 

 

隣の市だった

隣の市に住んでいるのに、わざわざ夜中に

人を襲いに来たのだ

 

 

警察が犯人を特定するのに決め手となったのは

コンビニの監視カメラ映像だったそうだ

あの日、その男は

あの公園近くの大通りにあるコンビニにいた

車を停め、自転車で1人走る女性を見つけると

車を同じ方向に走らせた

 

しばらくすると、男はまたコンビニに戻った

そこに私が自転車で通りかかり

また後を追う男の車がカメラに映っていたそうだ

コンビニで網を張っていたのだ

 

先の女性は方向が犯人にとって都合悪かったのだろう

失敗してコンビニに戻ってきた

そこに私が来て、まんまと公園の方向に行ったのだ

 

かなり計画的な犯行手口だった

 

思い出した

そういえば大通りで、私の後をゆっくり走る 変な車がいたんだった

なんじゃいこら?と思って振り向くと

車は私を追い越して公園の方向へ走り去った

 

あの車だ

あの車に乗ってたんだ、あいつが

間違いない

 

そして公園の駐車場に車を停め

 私から姿が見えない場所で息を潜めながら

 襲うタイミングを見計っていたのだ

 

犯行の手口を知って、恐ろしくなった

 ものすごく計画的だ

 

そんな計画的に人を襲うヤツがいる事を知って

 恐ろしかった

 

警察は続けた

 

「犯人を逮捕したら、裁判に向けまたご協力頂く事になると思いますので、よろしくお願いします」

 

裁判に向けて、何をするのだろう…

犯人が見つかった

意外な展開に不安に駆られ、その夜は悪夢にうなされた

 

事件後の変化

 

 

事件後の変化について

 

事件後も

警察の事情聴取が3回に分けてあった

 

聴取の度にあの夜の事を細部まで思い出さなくてはならない

思い出すとその夜は少し 不安定になった

 

事件後の変化としては

鍵をいちいち確認するようになった

夜が怖くなった

通行人が怖くなった

変な夢でうなされるようになった

 

実家にいたが

家族の言動が気に障るようになっていった

彼らにとっては普段の会話に

イライラする様になった

 

とにかく私には余裕がなかった

 

心の拠り所だった彼の存在も

事件を機に無くなってしまった

あの後、会わずにLINEで別れた

彼は会ってキレイに別れたかったようだか

会わなかった

会わずに汚く別れる事が

私ができる唯一の復讐だったからだ

 

 

事件でびっくりして、

体にも心にも青タンが出来た

そこに失恋による青タンも加わった

不倫だろうが恋は恋だったのだ

 

 

なんだか疲れてしまっていて

とにかく人と居るのが苦痛で

平気なふりするのが面倒臭かった

心配されるのも面倒だった

 

 

とにかく一人になりたい

私は実家を出る事にした

それから、ものすごい勢いで動き

一ヶ月後には家を出た

 

もう無理しなくてよくなってホッとした

 

辛かったこと、落ち込んでること

わかってくれる人はいたけど

青タンだらけの体と心で

代わりに立ってくれる人はいない

 

立ち上がるのは自分しかいないのだ