報われた日

目撃者であり、協力者である彼女と喫茶店で待ち合わせした



喫茶店に私が着いたとき、店員さんが言った

「お待ち合わせですね?既に来られているので、ご案内します」

私は彼女にお礼を言う側なのに、先に到着しなかった無礼を謝り、
お礼の気持ちを伝えた

彼女は私の勇気を称えてくれ、心の底から労ってくれた

彼女の優しさに触れ、私の涙腺は崩壊した
誰の前でも泣かなかったのに、あの日の私を知ってる彼女の前では
素直に「怖かったし、つらかった」と正直になることができた

そしてどれだけ彼女の存在が心強かったか、止まらない涙と共にお礼を伝えた



すると彼女は、「お礼を言うのは私の方なんです」
と話し始めた



「私、実は子供の時にあなたと同じような経験をしたんです。
あなたに比べたら全然大した事ない内容なんですが、
とても怖かったんです。
その時は子供だったし、何が自分に起こったのかよく理解できてなくて
警察にも親にも話せないまま自分の中に閉じ込めてしまったんです。
そのことは大人になるにつれ、徐々に忘れていったんですけど・・・。
私、30歳目前なのですが、学生時代に1人と付き合ったきり、その後誰とも付き合えなくて。
男性と二人きりになるのがなんだか怖くて、うまくいかないんです。
どうしてなんだろうってわからなくて、自分に何か問題があるんだろうと思い込んでいたのですが、
あなたの事件に遭遇したのをきっかけに、子供の時の記憶が蘇ってきたんです。」


なんということだ
彼女自身も性犯罪の被害者だったんだ。。。
しかも子供時代なんて、心の傷は計り知れないほど大きいだろう

彼女はつづけた


「記憶が蘇ってきて、つらくって。
裁判に証言者として出なくてはいけなくなるかも、と検事さんから聞いた後は余計つらくなって、
毎晩のように過去の経験のフラッシュバックで苦しむようになって・・・。
犯人と、といっても私の事件の犯人ではないんだけど、性犯罪の犯人と対峙しなければいけない恐怖がすごくて。
会社で泣きだしてしまう事もあったりして、すごく不安定になってしまったんですね。
でも私よりひどい目に遭ったあの女性は、勇気を出してそれを訴えて犯人に罰を与えようとしている。
そう思ったら、私も頑張らなきゃ、乗りこえなきゃと思う様になって。」


私の知らないところで、彼女も同じように苦しんでいたのだ


やっぱり一緒に戦ってくれていたのだ


「裁判に出なくてよくなった、と検事さんに聞いてからは、夜つらくなることはなくなったんですけど、
私、男性に頼るのも苦手だったのですが、その不安定な時期に私が事件の目撃者になった事を知る男友達に支えてもらったりして
男性に頼る事ができる今までにない自分を発見できたりしたんですね。

あの事件に遭遇したことは、そしてあなたに出会った事は運命だったんだと思います。
あなたの戦う姿を見て、自分も過去を乗り越えようと思えました。
だからお礼を言うのは私の方なんです。」



彼女も泣きだしてしまい、二人で泣いた
一緒に乗り越えたんだ、私たち


「母には全て話していて、母もとてもあなたに感謝していました。
これ母から、是非あなたに渡して欲しいと頼まれました」


大きな袋の中には、キレイに洗われ小分けにされた
いろんな種類の野菜が入っていた
見てるだけで元気になるほど、ピカピカしていた
彼女のお母さんが家庭菜園で作った野菜だそうだ


優しさが芯まで伝わるプレゼントで本当に嬉しかった


私のこの経験は完全なる無駄、ではなかったな

この半年が報われた気がした

いろんなつらい目にあったけど、
この世って捨てたもんじゃないな

こんな風に知らないところで
人がつながり合って、影響し合って、助け合っているのなら




この世は、この人生は、もしかしたら生きるに値するのかもしれない




そう思えた

ありがたい