110番

110番し、警察に状況を説明していたら

公園の向こうから

一台の車がこちらに向かって走ってくるのか見えた

ヘッドライトで運転手の顔が見えない

ゆっくりゆっくり私に近づいてきて止まったが

運転手が出てくる気配はない

 

 

私はとっさに思った

犯人が戻ってきた!

 

 

 

電話の向こうの警察に、

 

「変な車が止まってるんです!犯人かも!早く!

早く、来てください!」

 

 

私は傍に転がっていた自転車で逃げようとして

起こそうとするけど、手に力が入らない

自転車が起こせない、焦る

でも逃げないと!

自転車を引きずりながら、車の方をにらみ

警察に助けを求め続けた

 

すると、車の中から誰かが出てきた

 

 

 

「大丈夫ですか!?とにかく車に乗って下さい!」

 

 

 

お、女の人だ…!

 

 

彼女はさっき私をスルーした車の運転手だと言った

私を見つけた時は、後ろに一台他の車がいたし

一旦広いところまで出てUターンし

戻ってきたのだ、と言った

 

 

彼女の車に乗らせてもらい

警察が来るまで待たせてもらう事にした

 

 

もしかして、彼女の車が見えたから

犯人は逃げたのか?

だとしたら、この人は私の恩人なのかもしれない

 

もし、車が通らなかったら?

もし、自転車が倒された時、気を失ってたら?

もし、声が出なかったら?

私はどうなっていた?

 

何が起こったのかいまいち処理できない頭で

必死に気持ちを落ち着かせようとするが

震えと嗚咽が止まらない

しゃくり上げて泣くなんて、いつぶりだろう?

 

自分はもっと強い女だと思っていた

でも自転車をいきなり倒され、体を触られただけで

震え上がっていた

逃げていった犯人を追いかけて捕まえるなんて

夢のまた夢

パニックを起こして、泣き叫ぶだけだった

 

ただの弱い女だった

犯罪の前では、ただの一人の弱い女だったのだ